こちらのページでは、第2世代Ryzen以降で利用できる機能『Precision Boost Overdrive(以下:PBO)』の効果について、実際の検証結果を元に解説します。
『PBO』は、一般的にオーバークロック機能として紹介されていることが多いです。
しかしその効果は消費電力が増えるばかりで性能向上はほとんどありません。
ここでは『PBO』で上げるだけでなく、減少させた時の効果も見ていきたいと思います。
【重要】 Precision Boost Overdriveを有効にするとメーカーやショップの保証対象外になるのでご注意ください。
スマホで開きながら設定したい場合は、以下のQRコードを読み取るとこのページを開けます。

『PBO』の設定方法
PBOで設定が必要な項目はこの3つ
PBOで設定する項目は主に以下の3つです。英語なのでGoogle翻訳付でお届けします。
・PPT Total Socket Power CPU(合計ソケット電力CPU)
・TDC Sustained Current Limit CPU(持続電流制限CPU)
・EDC Peak Current Limit CPU(ピーク電流制限CPU)
なるほど、わからん
後ほど実際に設定して効果を確かめて行きます。
PBOを設定する2つの方法
・Windows上で動作するソフト「Ryzen Master」を使用する。
・「UEFI(BIOS)」画面から設定する。
この順番に説明していきます。
AMD製のオーバークロックソフト「Ryzen Master」を利用する
Windowsのデスクトップ上でテストをする場合は「Ryzen Master」を使用すると便利です。
設定するとその場で反映されるため、すぐにテストできます。また繰り返し設定を変更することもできます。
もしトラブルが発生してもPCの再起動やスリープで設定が解除されるのでわりと安心です。
1.下部メニューの「Profile 1」を選択。
2.「Control Mode」を「Precision Boost Overdrive」に変更。
3.「PPT」「TDC」「EDC」を設定。
4.画面上部の「Apply」を選択すると設定が即時反映される。
Ryzen Masterのダウンロードは以下のリンクから行えます
オーバークロック制御用AMD Ryzen Masterユーティリティ – AMD
「UEFI(BIOS)」画面の「Precision Boost Overdrive」から設定する
常用する場合は「UEFI」からの設定が必要です。
1.UEFIを開くために、PCの電源を押したら「DEL」キーを連打する。
2.UEFIのモードを「Advanced Mode」に変更する。
3.上部メニュー「Ai Tweaker」内の「Precision Boost Overdrive」を開く。
4.「Precision Boost Overdrive」を【手動】変更する。
5.「PPT Limit」「TDC Limit」「EDC Limit」を任意の値に設定する。
6.上部メニュー「終了」内の「変更を保存しリセット」を選択して再起動。
以上で設定完了です。
実際に『PBO』を使用して効果を検証する
CPU:AMD Ryzen 7 2700X
CPUクーラー:Noctua NH-U14S
マザーボード:ASUS PRIME X470-PRO
BIOS:AGESA 1.0.0.4B(バージョン 5406)
メモリー:G.Skill F4-3600C19D-16GSXWB
その他接続機器:SSD2台、HDD2台、ケースファン4台、マウス、キーボード、ヘッドセット、ゲーコントローラ
電源プラン:AMD Ryzen Balanced
※普段使っている環境なのでゴチャゴチャついてます
検証1.PPTの設定変更
「PPT」を変更し、TDCとEDCは定格で動作させた場合の変化を見ていきます。
CINEBENCH R20
・PPTを【141】→【100】に変更する(-41)と、消費電力もほぼ同程度(-42W)低下した。
そのことからPPTはCPUが利用できる最大の消費電力だと推測できる。
・PPTの値を下げるとスコア、消費電力、CPUの温度が低下した。
・消費電力の減少と比べてマルチスコアの低下が緩やかなため、PPTを下げることで消費電力あたりの効率が向上している。
・なおPPTを【160】に設定してもスコアが伸びないのは「TDC」や「EDC」が上限に達しているためです。
PBOの設定 PPT/TDC/EDC | マルチ スコア(cb) | スコア 変化率 | 消費 電力(W) | 電力 増減値(W) | CPU電力 効率(cb/W) | 電力効率 変化率 | 最大CPU 温度 | 温度差 |
70/95/140 | 3328 | -16.1% | 140 | -78 | 23.77 | 30.6% | 37 | -20 |
80/95/140 | 3494 | -11.9% | 152 | -66 | 22.99 | 26.3% | 39 | -18 |
100/95/140 | 3709 | -6.5% | 176 | -42 | 21.07 | 15.8% | 47 | -10 |
120/95/140 | 3874 | -2.3% | 201 | -17 | 19.27 | 5.9% | 55 | -2 |
定格141/95/140 | 3967 | 0.0% | 218 | 0 | 18.20 | 0.0% | 57 | 0 |
160/95/140 | 3958 | -0.2% | 221 | 3 | 17.91 | -1.6% | 58 | 1 |
PBOの設定 … PPT/TDC/EDCの順の設定
マルチスコア(cb) … CINEBENCH R20のCPUスコア
スコア変化率 … 定格を基準にしてスコアが増減した割合
消費電力(W) … ベンチマーク中にワットモニターで計測したPC本体の消費電力
CPU電力効率(cb/W) … マルチスコアを消費電力で割り、消費電力あたりのスコアを割り出したもの。高いほど効率的
電力効率変化率 … 定格を基準にしてCPU電力効率が増減した割合
最大CPU温度 … CINEBENCH R20が完走するまでの最高温度
温度差 … 定格を基準にした最大CPU温度の増減値
Passmark 9.0
- 「CINEBENCH R20」と比べると変化は小さいものとった。
PBOの設定 PPT/TDC/EDC | CPU MARK スコア | スコア変化率 |
70/95/140 | 16453 | -4.2% |
80/95/140 | 16751 | -2.5% |
100/95/140 | 17086 | -0.6% |
120/95/140 | 17150 | -0.2% |
定格141/95/140 | 17171 | 0.0% |
160/95/140 | 17191 | 0.1% |
PBOの設定 … PPT/TDC/EDCの設定
CPUMARKスコア … PassmarkのCPU MARKのスコア
スコア変化率 … 定格を基準にしてスコアが増減した割合
アイドル時の消費電力、最大Clock
- 変化なし。
PBOの設定 | アイドル消費電力(W) | 消費電力変化率 | 最大Clock | Clock変化率 |
70/95/140 | 79 | 0.0% | 4341 | 0.0% |
80/95/140 | 79 | 0.0% | 4343 | 0.0% |
100/95/140 | 79 | 0.0% | 4347 | 0.1% |
120/95/140 | 79 | 0.0% | 4347 | 0.1% |
定格141/95/140 | 79 | 0.0% | 4343 | 0.0% |
160/95/140 | 79 | 0.0% | 4344 | 0.0% |
PBOの設定 … PPT/TDC/EDCの設定
アイドル消費電力 … アイドル時にワットモニターで計測したPC本体の消費電力
消費電力変化率 … 定格を基準にして消費電力が増減した割合
最大Clock … アイドル時の最大Clock
Clock変化率 … 定格を基準にしてClockが増減した割合
検証2.TDCの設定変更
「TDC」を変更した影響はよくわからなかったので、参考までにCINEBENCH R20の結果のみ掲載します。
CINEBENCH R20
PBOの設定 PPT/TDC/EDC | マルチ スコア(cb) | スコア 変化率 | 消費 電力(W) | 電力 増減値(W) | CPU電力 効率(cb/W) | 電力効率 変化率 | 最大CPU 温度 | 温度差 |
141/47/140 | 3158 | -20.4% | 130 | 0 | 24.29 | 33.5% | 37 | -19 |
141/60/140 | 3500 | -11.8% | 130 | 0 | 26.92 | 48.0% | 45 | -11 |
141/80/140 | 3831 | -3.4% | 130 | 0 | 29.47 | 61.9% | 56 | 0 |
定格141/95/140 | 3967 | 0.0% | 130 | 0 | 18.20 | 0.0% | 57 | 0 |
検証3.EDCの設定変更
「EDC」を変更し、TDCとTDCは定格で動作させた場合の変化を見ていきます。
CINEBENCH R20
・「EDC」の値を下げると大きくスコアが低下した。
・消費電力とCPU温度が減少し、電力効率が向上した。
・「EDC」を上げると若干スコアが上昇したが消費電力も増加した。
PBOの設定 PPT/TDC/EDC | マルチ スコア(cb) | スコア 変化率 | 消費 電力(W) | 電力 増減値(W) | CPU電力 効率(cb/W) | 電力効率 変化率 | 最大CPU 温度 | 温度差 |
141/95/70 | 2970 | -25.1% | 126 | -92 | 23.57 | 29.5% | 31 | -26 |
141/95/80 | 3158 | -20.4% | 138 | -80 | 22.88 | 25.8% | 36 | -21 |
141/95/100 | 3544 | -10.7% | 159 | -59 | 22.29 | 22.5% | 40 | -17 |
141/95/120 | 3771 | -4.9% | 184 | -34 | 20.49 | 12.6% | 49 | -8 |
定格141/95/140 | 3967 | 0.0% | 218 | 0 | 18.20 | 0.0% | 57 | 0 |
141/95/160 | 4001 | 0.9% | 229 | 11 | 17.47 | -4.0% | 60 | 3 |
Passmark 9.0
・「CINEBENCH R20」同様、 「EDC」の値を下げると大きくスコアが低下した。
・一方で「EDC」を上げるとスコアが若干上昇した。
PBOの設定 PPT/TDC/EDC | CPUMarkスコア | スコア変化率 |
141/95/70 | 13630 | -20.6% |
141/95/80 | 14481 | -15.7% |
141/95/100 | 15758 | -8.2% |
141/95/120 | 16659 | -3.0% |
定格141/95/140 | 17171 | 0.0% |
141/95/160 | 17563 | 2.3% |
アイドル時の消費電力、最大Clock
・「EDC」を下げるとアイドル時の消費電力が減少し、上げると増加した。
・アイドル時のCPUクロックが大きく低下した。
PBOの設定 PPT/TDC/EDC | アイドル消費電力(W) | 消費電力変化率 | 最大Clock | Clock変化率 |
141/95/70 | 70 | -11.4% | 3243 | -25.3% |
141/95/80 | 70 | -11.4% | 3416 | -21.3% |
141/95/100 | 72 | -8.9% | 3892 | -10.4% |
141/95/120 | 76 | -3.8% | 4167 | -4.1% |
定格141/95/140 | 79 | 0.0% | 4343 | 0.0% |
141/95/160 | 82 | 3.8% | 4340 | -0.1% |
検証4.省電力/パフォーマンス カスタム設定
PBOを利用し「省電力寄りの設定」と「全ての項目を上げたパフォーマンス設定」の変化を見ていきます。
先に結果をまとめますと
・「省電力」設定は電力効率が大きく改善する。パフォーマンスが結構下がる。
・「パフォーマンス」設定は少しスコアが向上した。ただ消費電力の増加が大きい。
・この中の3つなら定格が一番いい。
CINEBENCH R20
PBOの設定 PPT/TDC/EDC | マルチ スコア(cb) | スコア 変化率 | 消費 電力(W) | 電力 増減値(W) | CPU電力 効率(cb/W) | 電力効率 変化率 | 最大CPU 温度 | 温度差 |
省電力 70/95/85 | 3307 | -16.6% | 140 | -78 | 23.62 | 29.8% | 39 | -18 |
定格141/95/140 | 3967 | 0.0% | 218 | 0 | 18.20 | 0.0% | 57 | 0 |
パフォーマンス 160/105/160 | 4045 | 2.0% | 252 | 34 | 16.05 | -11.8% | 69 | 12 |
・「省電力 70/95/85」の設定は、EDCの最小値は70だが、EDC70だと「CINEBENCH R20」ベンチマーク中のPPTが82%止まりだったため引き上げた。
・「パフォーマンス 160/105/160」の設定は、「CINEBENCH R20」ベンチマーク中の各項目が99~100%になるように調整した。
Passmark 9.0
PBOの設定 PPT/TDC/EDC | CPUMarkスコア | スコア変化率 |
省電力 70/95/85 | 14847 | -13.5% |
定格141/95/140 | 17171 | 0.0% |
パフォーマンス 160/105/160 | 17507 | 2.0% |
アイドル時の消費電力、最大Clock
PBOの設定 PPT/TDC/EDC | アイドル電力(W) | 電力変化率 | 最大Clock | Clock変化率 |
省電力 70/95/85 | 70 | -11.4% | 3590 | -17.3% |
定格141/95/140 | 79 | 0.0% | 4343 | 0.0% |
パフォーマンス 160/105/160 | 82 | 3.8% | 4340 | -0.1% |
検証のまとめ
・「PPT」は定格141から下げることで高負荷時の消費電力が減少し、発熱も減少する。
PPTを「100~120」くらいに設定するならパフォーマンス低下は限定的。
→【活用案】頻繁にCPUを100%でぶん回す人は、PPTを下げることで電力効率が上がって節電が期待できる。
・「TDC」はこれを下げるより他の設定を変更した方が調整しやすい。
・「EDC」を定格「140」から上げると若干パフォーマンスが向上する。ただし消費電力も多少増加する。
→【活用案】少しでもパフォーマンスを上げたいのなら、EDCだけ上げる設定なら利用する余地はある。
・「EDC」を定格「140」から下げるとアイドル時の消費電力が減少する。ただし全体的にパフォーマンスが大きく低下する。
→【活用案】常時PCをつけっぱなしでパフォーマンスより節電を重視したい時に期待できる。
※ただ、それなら最初から消費電力の少ないRyzen 3200Gなどを使う方が良いのでは…(※1)。
(※1)参考記事:第3世代Ryzenと同時発売のAPU「Ryzen 5 3400G」「Ryzen 3 3200G」の実力に迫る – ASCII
ちなみに私はRyzen 7 2700Xを「PBO 141/95/150」と「CPU 電圧 Offset -0.1V」を併用して運用しています。
「CPU 電圧 Offset」設定方法は後述の【関連記事】から
コメント
すごいわかりやすかったです!
ありがとうございます
参考になれば嬉しいです😀